多次元ARモデルによる経済変数の逐次予測
(統計数理研究所 佐藤 整尚)
複数の経済変数が手元にある時、ただそれらをならべてみていても、その背後にある変数間の関係を見ることは難しい。我々がよく目にする経済変数はそれ自身が独立して変化していると捉えるよりも他の変数と何らかの関連を持って動いていくと考えるほうが自然である。たとえば、ある変数が前年比x%伸びたとするときに、このまま額面どおり捉えるよりは、他の関連するであろう変数の動きを踏まえた上で上がった、下がったを議論すべきである。そのようにすることで、経済全体のダイナミズムも見えてくるのである。しかしながら、変数間の関係は一般にとても複雑で調べるのはやさしいことではない。ここでは、経済学的な仮定を一切排して、その関係を多次元ARモデルによって推定することを提案する。また、各変数の逐次的な予測値の変化は変数間の関係を考慮した真の経済状態を見るためのメジャーになりうる、ということを主張する。
まず、必要な変数を選ぶことがまず第一であるが、ここでは、その選び方までは言及しない。基本的には分析者の主観による。もちろん、核となる変数は含まれている必要がある。(消費を見るのが主眼であれば、消費をあらわす変数であるとか、生産活動であれば、鉱工業生産指数など)一つ注意点としては、あまり、変数を多く取りすぎてもよくないので、データが取れる期間に応じて、変数の数を制限すべきである。今回の例では、約15年の月次データに対して変数の数は6とした。
変数を選んだら、必要に応じて、定常化を行う。経済データは通常、トレンドや季節性を含むことが多く、これらを除去する必要がある。今回提案する方法は平均伸び率という値に変換するやり方である。この変換は単純な前年同月比よりもブレが少なく、安定しています。理由は前年の不規則変動を控除しているからです。計算の仕方は以下の2通り考えられる。
(1) t期の平均伸び率 =
ADJt − Tt-12
(2) t期の平均伸び率 = Yt − (Yt-12 − Nt-12)
但し、 Yt = log(原系列)、
Yt = Tt + St + Nt (トレンド、季節成分、ノイズへの分解)
ADJt = Tt+Nt (季節調整値)
なお、トレンドの値や季節調整値 は Decomp法 にて推定。
(1)と(2)を比べると、(1)はより滑らかなで、ぶれていない系列が得られるが、データの追加に伴う更新幅は(2)のほうが少ない。
今回の例では (1) を用いた。
変換されたデータに対して多次元ARモデルと呼ばれる、時系列解析では非常にポピュラーなモデルをあてはめる。このモデルをあてはめるということは変数間の複雑な関係を一次近似することに相当する。
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上式は2次元ARモデルの一部であるが、このように、現在のある変数の値はそれ自信の過去値と他の変数の過去値の線形和で表現されるというモデルである。
係数のaやbはデータから推定されるパラメータである。また、どのくらい過去の値まで考慮するか(m,lの決め方)はAIC(赤池情報量規準)で自動的に決めることができる。
モデルが推定されると、そのパラメータを使って将来の値を予測することができる。すなわち、来期の値は今期までの値と推定されたパラメータによって計算できる。(当然、誤差項は0とおいている。)2期先の値は今求めた、1期先予測の値と過去の値を使って求められる。当然どのようなパラメータかによって、予測値が変わってくる。
この方法によって求まった値は将来の系列の予測値というだけでなく、現在の状態を映し出しているとも考えられる。すなわち、パラメータは現在までのデータを使って求めた変数間の関係を表していると考えられ、そのパラメータから求まる予測値は現在の状態がそのまま続くとしたときの予想と考えるべきである。(将来の政府の政策変更や突発的な事件などは考慮されていない。)したがって、新しいデータの追加を行って、パラメータを逐次推定してやると、当然予測値も変わりうる。この変化は、経済状態の変化を表しているとも言える。
ここで考えた変数は以下の通り。
―――平均残高、準備率調整前、億円 (日本銀行)
―――利付国債10年、年%月末 (日本証券業協会)
―――卸売物価指数総平均、1995年=100 (日本銀行)
―――景気動向指数、1990年=100 (通商産業省)
―――民需(船舶・電力を除く)、億円 (経済企画庁)
―――円ドル東京市場5時、円 (日本銀行)
データ期間は1983年1月から1998年10月までで、平均伸び率(前年同月比)に変換してある。

予測値としては機械受注に注目した。1998年1月から10月までの間、その期までの値でパラメータを推定し、予測を行った。(たとえば、1998年4月から延びている予測値は4月までのデータのみを用いてパラメータを推定し、その値と過去の系列の値から、5月、6月、…を予測したものである。)これを逐次予測と呼び、その結果を図1に示した。(2ヶ月ごとの予測値を描いた。)
これを見ると、月を追って状況が悪化していることがよく分かる。もちろん、実績値のみでもかなり悪くなっているが、6月と10月の実績値の差はそんなに大きくないが、逐次予測は大きく違っている。これは、変数間の関係に変化があったと考えられ、経済状態の悪化を示すものといえよう。

同じ事を1992年でやったものが図2である。これを見ると、1月、2月の逐次予測はかなり悪いが4月以降になると上向きになり、経済状態の悪化が収まり、反転していく様子が読み取れる。しかしながら、この動きは実績のみを見ていては捕まえにくい。また、この時は予測値と実績値を比べると、この予測がよく当たっいることがわかる。
このように、逐次予測を見ることで、足元の経済状態がもっとよく分かることがある。なお、機械受注に関する最新結果は http://www.ism.ac.jp/~sato/ の ”Official Statistic Review” のコーナーで見ることができる。 (終わり)